魏延伝

章  その人。

「私さぁ、魏延様って噂では知ってるけど、実際には見た事も無いのよねぇ。どんな感じだったの?」

「え・・・私は・・暗くてよく見えなかったんだけど・・・なんというか・・個性的な鎧着てたよ?」

「あらあら。あれは個性的で済まされますの?」

「って、珠璃は知ってんの?」


これからお世話をするであろう相手の姿も知らないなんて。

なんだかちょっと、自分が情けない。

腕の温もり、血の感触だけ知ってるなんて・・・。


「そうですわね・・・。あの方は・・・『不気味』そのものですわね」

「ちょっと!失礼よ。ねぇ、藍月」

「うん・・でも・・私もちょっと怖い・・かも・・声も・・なんか・・・」

「もうっ。2人とも」


私が炎の中で見た影。あれは恐らく、魏延様だったのだろう。

正直、怖かった。今でも、思い出すと体が震える。

噂によれば見た目だけでなく、性格も恐ろしいという。

私はそんな人のお世話をやっていけるのだろうか?


「まあまあ。もうすぐその魏延様を拝見出来ますわよ」

「って、なんか見世物になってない?」

「あらあら。見たいと言われたのは優蘭さんと藍月さんですわよ?」

「で・・でも、覗き見なんて、もし見つかったら・・・」

「打ち首・・・かもしれませんね」


珠璃は事も無げに言ってのける。

でも、なんだか楽しそうだ。


「ほら、みなさん来ましたわ」


諸将が集まり、なにやら難しい事を話し合っている。

私は戦争の事も、政治の事もよく解らない。特に興味も無かった。

たまたま蜀の陣営で女官をやっている。ただそれだけだった。


明るい元では、初めて見るその姿。

一目で魏延さまと判った。

あの、炎の向こうに見た影。

全てを拒絶するかのような鎧。

そして、己を隠すかのような仮面。


「うわ・・すごっ・・・」

優蘭が息を呑む。

「確かに、不気味ね・・・」


想像以上だった。

まさかあのような方に命を助けられていたとは。


「ねぇ、藍月。本当にあの人のお世話するの?」

「ぇ・・うん。だって・・・」

「見てよ、あの仮面・・・怖くないの?」

「それは・・そうかも知れないけど・・・でも・・」

「でも?」

「嫌いじゃないわ」

「あらあら」


確かに、最初に見たときは良い印象は受けなかった。

だが、何となく、嫌いにはならなかった。

ただ、何となく。


明日から、私は魏延さまのお世話をする。

ちょっぴり不安はあるけれど、上手くお仕事できたらいいな。

つづく。







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