魏延伝
第3章 その人。
「私さぁ、魏延様って噂では知ってるけど、実際には見た事も無いのよねぇ。どんな感じだったの?」
「え・・・私は・・暗くてよく見えなかったんだけど・・・なんというか・・個性的な鎧着てたよ?」
「あらあら。あれは個性的で済まされますの?」
「って、珠璃は知ってんの?」
これからお世話をするであろう相手の姿も知らないなんて。
なんだかちょっと、自分が情けない。
腕の温もり、血の感触だけ知ってるなんて・・・。
「そうですわね・・・。あの方は・・・『不気味』そのものですわね」
「ちょっと!失礼よ。ねぇ、藍月」
「うん・・でも・・私もちょっと怖い・・かも・・声も・・なんか・・・」
「もうっ。2人とも」
私が炎の中で見た影。あれは恐らく、魏延様だったのだろう。
正直、怖かった。今でも、思い出すと体が震える。
噂によれば見た目だけでなく、性格も恐ろしいという。
私はそんな人のお世話をやっていけるのだろうか?
「まあまあ。もうすぐその魏延様を拝見出来ますわよ」
「って、なんか見世物になってない?」
「あらあら。見たいと言われたのは優蘭さんと藍月さんですわよ?」
「で・・でも、覗き見なんて、もし見つかったら・・・」
「打ち首・・・かもしれませんね」
珠璃は事も無げに言ってのける。
でも、なんだか楽しそうだ。
「ほら、みなさん来ましたわ」
諸将が集まり、なにやら難しい事を話し合っている。
私は戦争の事も、政治の事もよく解らない。特に興味も無かった。
たまたま蜀の陣営で女官をやっている。ただそれだけだった。
明るい元では、初めて見るその姿。
一目で魏延さまと判った。
あの、炎の向こうに見た影。
全てを拒絶するかのような鎧。
そして、己を隠すかのような仮面。
「うわ・・すごっ・・・」
優蘭が息を呑む。
「確かに、不気味ね・・・」
想像以上だった。
まさかあのような方に命を助けられていたとは。
「ねぇ、藍月。本当にあの人のお世話するの?」
「ぇ・・うん。だって・・・」
「見てよ、あの仮面・・・怖くないの?」
「それは・・そうかも知れないけど・・・でも・・」
「でも?」
「嫌いじゃないわ」
「あらあら」
確かに、最初に見たときは良い印象は受けなかった。
だが、何となく、嫌いにはならなかった。
ただ、何となく。
明日から、私は魏延さまのお世話をする。
ちょっぴり不安はあるけれど、上手くお仕事できたらいいな。
つづく。
戻る
魏延伝→ 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 終章
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||