呂布伝

1章  強い子

何進は何皇后に召され、宮中へ参る準備をしていた。
曹操と袁紹は「宦官の罠だ」などと言う。だが、今の何進には怖い物など無い。いや、正確に言うと曹操は何進を止めようとはしなかった。曹操には判っていた。
(ことの大元を絶てば良いだけだ。大袈裟にしてはならぬ。だが、この男にはそれが判らない。
この男の命運は尽きた。止めた所でこの男は逆上し、こちらに怒りを向けるだけだ。ならば何も云うまい)
袁紹はそんな考えを持った曹操が許せなかった。当然である。謀反と同義なのだ。
だが、曹操の凛とした表情。まっすぐな瞳。袁紹はそこに「覇」の者を見たような気がした。何進がもうすぐ殺されるという事が判っていながら、爽やかな笑みをもらす曹操。
袁紹はそんな曹操に完全に呑まれてしまう。

到着した一行。袁紹は「恐れ多い」と身を引いた。これから起こる事を予期し、また、曹操の考えに同意した証でもある。

ほんの数秒だろうか。
そこにそれは飛んできた。
つい先刻まで自信に溢れていた何進。その首に胴体は無かった。
瞬間、宦官誅殺。
あらかじめ曹操と袁紹は兵を用意していた。合図とともに、それは始まった。
血の宴だった。きらびやかな屋敷は赤に染まり、悲鳴がこだまする。一族郎等皆殺し。ここに全ての宦官が消えた。

この惨事がら逃れた少年が二人居る。少帝(劉弁)と陳留王(劉協)である。
この惨事に参加する筈だった者が居る。董卓である。

都に帰ろうとする少帝と陳留王。少帝は足が痛いだの、疲れただのと愚痴をこぼし、なかなか前進することができない。
「陳留王、少し休もう」
「大丈夫ですか?兄上」
「余らは元の生活に戻れるのかなぁ?」
「弱気な事を仰らないで下さい。きっと大丈夫です。頑張りましょう」

やせ細った二人の前に、董卓軍が通りかかる。

「何者だ!馬を下りて名を名乗れ、無礼者!」
陳留王は大人たちに向って凄みを利かせた。後漢第13代皇帝である少帝は陳留王の陰に隠れて震えている。
「お主たちは帝を殺しにきたか!それとも保護しようというのか!」
陳留王はさらに董卓に向って声を荒げる。

董卓は驚いた。帝である少帝はただ、恐怖に震えているだけの子供だ。
だが、陳留王はその歳に似合わないほどの気迫、胆力を持っている。
馬を下り、頭を低くして董卓は応えた。
「ご無礼をお許しください。我々はお2人を都へお連れします」
陳留王はほっと一息つき、少帝に手を伸ばす。少帝はまだ震えが止まらなかった。


董卓は進言した。少帝ではなく、陳留王を即位させるべきだ、と。
呂布にとって、そんな事はどうでも良かった。政治の事など知ったことではない。
だが、養父である丁原は違った。
「そんな事は一臣下が口を出すことではない」
すかさず反発する。
腕に覚えのある董卓はこの反発に激怒し、丁原に斬りかかろうとする。呂布は素早く二人の間に入り、戟を構える。このような男など俺の敵ではない。
「どうした、養父を討ちたくばまずは俺を倒す事だ。いつでも相手になってやる」
「おのれ・・言わせておけば・・・」
強がりにしか見えなかった。実際、一瞬にして董卓の殺気は消えたようだ。
董卓は元は武人である。相手の強さが見て判らぬほど馬鹿ではない。
董卓のそばにいた李儒が何事か耳打ちすると、「ふんっ」と鼻を鳴らしながら刀を納めた。

つまらん。俺はこんな所でこんな奴を相手に武器を取っている。何故だ?
体の疼きは日に日に大きくなっている。体が戦を求めているのだ。今まで、まともな戦に参加した事は無い。戦場で思う存分暴れてみたかった。自信はある。20秒もあればここにいる全員を皆殺しにする事だって簡単だ。
養父上はいつか俺の時代が来ると言っている。それはいつになるのだろうか?
曹操、劉備、孫堅。この3人が奮起するという事も聞いた。
俺が全て蹴散らしてやる。だが、それにはまず、どうすれば良いのだ?
養父上は「時期に好期はやってくる」という。わからない。何もかもがわからない。


翌日だった。
俺は董卓軍200余名と対峙した。養父は言う。
「久しぶりに暴れてこい」
「久しぶり?」
どういうことだ?俺は今までまともに戦などしたことが無かった。そんな記憶は無い。
「そうか・・・まぁ良い。今は董卓軍を打ち破る事を考えろ。いや、考える必要は無い。思ったとおりに動けばいい」
己の過去などどうでも良かった。
200余名の人間とたった一人で戦える。その事実が呂布の体を奮い立たせる。

戦いの地はただっ広い荒野だった。
遠くに「董」の旗が見える。
「豚め。その首、掻っ切ってやるぞ」
一人つぶやいた呂布。

最初に一騎が突っ込んできた。
呂布は落ち着き払っていた。

ふん、まずはその馬から降ろしてやろう。
走ってくる馬に向って猛然と走り出す。向こうは槍を構え、大声を上げている。くだらん、犬ころめ。
さっと体勢を低くして馬の脚を切り落とす。悲痛な叫びを上げながら馬は倒れ、主人を投げ落とした。
倒れた敵兵にゆっくりと近づく。敵兵は呂布の恐ろしさに今ごろ気付いたのか、「ひぃっ」と情けない声を上げた。
それを見下ろす。
「死ね」
別に恨みなど無い。だが、相手は敵兵だ。俺は何処までも冷酷になれる。

気が付けば戦は終わっていた。
呂布は死体の山の上に立っていた。どうやら、董卓自身は既に退却してしまったようだ。
どの敵のどんな攻撃をどうやって防いだのかも、そしてどうやって殺したのかも覚えてはいない。
死体の山の上に座り込み、迷った。
なんだ・・これは・・??
自分の心が制御できなかった。
血、肉、骨。
歓喜に溢れた自分と、虚無感を抱える自分。
これが戦なのか?
落ち着いているのか興奮しているのか、よくわからない。また解らない事ばかりだ。

雨がしとしとと降り始める。
固まりかけていた血は再度水気を取り戻し、死体の山をせせらぎのように流れ出す。
その流れはいずれ濁流となり、呂布を飲み込む。そんな想像が浮かんだ。
「くっくくくく・・・」
何だか可笑しかった。
わけもわからず、大声で笑った。雨の音と呂布の笑い声が鎮魂歌と化す。

雨とは違う水が彼の顔を濡らした。
呂布にはそれの意味がわからなかった。





つづく。


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〜〜〜あとがき〜〜〜
今回はできるだけ「三国志」に忠実に書こうと思っています。よって、フィクションの面白さは希薄。しかも、知識が希薄なため、忠実にもなってないかも(どっちよ
修正:矢っ張りフィクションけっこう入るかも。(てゆーか、史実に詳しくないので、よく分らないとこは全部フィクション。大体の流れは演義よりになると思いますが)
魏延伝と比べると、かなり「少年漫画」よりになるかと思われます(予定ですが
ぇ、貂蝉との恋愛?それなりにあります。
言い訳ばっかり・・(-_-)
まぁ、お暇な方は読んでやってください。

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