お髭にまつわるエトセトラ

第2話


部屋に入った呂蒙は笑いが止まらなかった。
ついに、ついにやったのだ。

蜀将関羽の髭をこそぎ落としてやった。

つるつるの肌をした関羽は樊城の城壁から飛び降り、自殺してしまった。

「おれの勝ちだ」

今、主を失った髭は呂蒙の手元にある。
フサフサとしており、触っていて心地よい。

そっと自分の顎に持っていく。
その時だった。

「な・・・何だっ!?」

髭は意思を持ったように動き出し、ぞわぞわと呂蒙の顎に取り付く。
引き離そうとするが、変幻自在に動く髭を止める事はできない。

「おのれ関羽!死して尚、呪いをかけるのか!」

しかし、それは違っていたようだ。

髭は呂蒙の顎にきれいにくっ付くと、静かになった。
まるでそこに生えていたかのように。

「おぉっ・・これは・・・」

あまりにも美しい。
今、関羽の髭は呂蒙の物となった。




数日もすれば、呂蒙は一躍人気者になっていた。
「呂蒙殿、美しい髭ですな。あの美髯公にも負けてませんよ」
陸遜が誉める。
「はっはっは。それがしにも貫禄が付いてまいりましたかな?」
呂蒙は髭を撫でながら自信げにいう。

「まぁ、関羽より似合ってるんじゃないかしら?」
孫尚香が続く。
「あぁ、素晴らしい。私も羨ましいくらいだ」
孫権はしげしげと髭を見ながら言う。

何かが違っていた。
これはおれが望んでいた事か?
よく見てみろ。
陸遜も、孫尚香も、孫権も。
おれではなく、この髭を誉めている。
この髭は今ではおれの物だが、元はといえば関羽の物だ。おれが奪って自分の物にしたに過ぎない。
今、彼らは関羽の忘れ形見を褒め称えている。

呂蒙の頭ににやにやと嗤う関羽の顔が浮かんだ。
(どうだ?子明。矢っ張りお前は只のオッサンなんだよ!)
少年関羽と美髯公関羽がだぶって呂蒙を罵る。

まただ。
あの頃と一緒だ。何も変わっちゃいなかった。

部屋に戻った呂蒙は、怒りと悔しさを胸にその髭をばっさりと切り落とした。
これで良い。
これで良い筈だ。
自分を納得させるように、髭の事を忘れるように。

終わってはいなかった。

切り落とした髭は、勢いを持って呂蒙の首に纏わり付いた。

「なっ・・・今度は何だっ!?」

引き離そうとするが、髭の力はあまりにも強い。

「痛いよぅ・・・痛いよぅ・・・どうして切ったの?ねぇ、どうして?」
声が聞こえる。この髭が訴えかけているというのか。

「何故切った?何故切った?何故切った?」
今度は関羽の声だった。
悔しかったのだ。自分に無い物を彼は持っていた。自分が持ち得ないものを彼は持っていた。
「だから切った」
仕方なかったのだ。関羽を追いつめた時、彼の命よりも髭のほうが呂蒙にとって重大だった。
「何故再度切った?」
仕方なかったのだ。関羽の髭を身につけたとて、それは矢張り呂蒙自身の物ではない。
納得などいかなかった。

首についた髭はぎゅっと力をこめるように締まり始めた。
「ぐっ・・」
嗚咽を漏らす呂蒙。


翌日、呂蒙の遺体の首にはくっきりと誰かの手形が残っていた。



終わり。






〜〜〜あとがき〜〜〜
何だこれ?
ホラー小説です(何

何か、2人とも英雄っぽくないし。醜い争い。
でも、争いってこんなモノなんだと思う。第3者から見たら、ホントに取るに足らないくだらないことだったりする。
こんなまとめ方で良いですか?(ぇ


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