第1章〜とむらいの夜〜
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はっと顔を上げると、いつのまにか雨はやんでいた。軒先でしゃがみこんでいるうちにうたた寝してしまったらしく、腰が痛い。
もしかして全部夢だったのか?などと考えてみようとしたが、それならばこんな所で一人座っている筈は無いのだ。
じっとしている訳にはいかない。フリントは立ち上がって帽子をかぶりなおし、村へ向かって歩き出した・・・と、愛犬のボニーが立ちふさがる。
「ん、何だ?お前もくるか?」
ボニーは一声上げるとフリントの先に立ち、走り出した。
「ヨーネル!」
聖堂の壁にもたれかかって空を見上げる男に声をかけた。ヨーネルはタツマイリの村を仕切る、いわば村長である。髪は真っ白になっているが、実は意外と若い(らしい)。
「フリント、来たか。グループに分かれてヒナワさんたちを探すよう、指示を出しておいた。まったく、お前は親切な友達に恵まれているな。幸せものだよ」
肩を叩かれながらそう言われても、幸せを噛みしめている余裕などは無い。フリントはすぐに森へと入っていった。
森の中は燃えた木々とそれを無理やり消化した雨によって、湿気と独特の匂いに満ちていた。地面はぬかるみ、場所によっては沼のように足が沈む。夜もふけてきて、本当ならば人命救助に乗り出すべき状況ではないのだが、タツマイリの人々はそんな理屈を持たない。
大事な仲間たちが困っている・・・・行動に駆り立てるには、十分な動機だ。
森は荒れていたが、それでも村人たちがあちらこちらを探し回った挙句、いくつかの小道のようなものが出来上がっている。フリントはその中の一つを適当に選び、いったん誰かと合流しようと考えた。
少し進むと、すぐにバトーとブロンソンを発見できた。
「あ、フリントさん。これ見てくださいよ・・・雷なんかじゃなくて、誰かがへし折ったように見えるんだけど・・・」
ブラウンの前髪が少々伸びすぎて視界の悪そうなバトーが指差す先には、なるほど、不自然に折り曲がった巨木があった。雷が落ちたとか炎に巻かれたとかならば木の全体に焦げ後があるだろうし、葉も焼けていて当然だと思われる。しかしこの木にはそんな痕跡は無く、何の前触れも無くへし折られたかのように見えるのだ。
テリの山で起きた火事。そこで飛び回る謎の虫とネズミ。そして豚面の何者か・・・更にイサクが聞いたという、ドラゴの叫び、悲鳴・・・。
フリントには村の人々がそれらの事をどこまで知っているか分からないが、無用な混乱を避けるためにも言わないほうが良いと思った。だが、それでは情報は集められない・・・一体どうすれば良いのか?
何が起きているのか、何をすべきなのか、フリント自身にも・・誰にもわからないのだ。
「ここを進むのはちぃときついな・・・」
ブロンソンが諦めかけた時、背後から威勢のいい声が聞こえた。振り返るとイサクとフエル、それに角材を杖代わりにしたライタだった。
「おいライタ、そんな足で無茶するんじゃねぇよ」
「バカヤロー!俺はいつだって大丈夫なんだ。けが人扱いしないでくれ!」
「この調子で全然言うこと聞いてくれねぇんだよ」とイサクもやや呆れ顔だが、無理に止めようとしている風にも見えない。村のみんながヒナワとリュカ、クラウスを、そしてフリントを心配しているのだ。
「こんなもんは俺に任せとけ。ソッコーでばらばらにしてやる」
と意気込むが、足を怪我していたのでは踏ん張りが利かず、思うように力も入らない。
「てめーらも手伝え!」
バトーとブロンソン、フエルは、イサクが抱えてきたノコギリやら斧やらを手にして巨木に立ち向かう。
「ここは俺たちに任せろよ、な」
そう言って白い歯を見せるライタはなかなかに頼もしかった。フリントは彼らを残し、別ルートをたどることにした。
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