第1章〜とむらいの夜〜

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 フリントたちはタツマイリにある唯一の宿屋へと、ライタを運び込んだ。
 宿屋と言っても他所から客がくることなどほとんど無く、主人が趣味で立てようなものだったのだが、家を失った親子にとってはここがしばらくの間、新しい家となる。
「終わりましたよ」
 ぼうっとしていたところを宿屋の一人娘、テッシーに声をかけられて、まるでたった今眠りからさめたような感覚になった。森の中を夢中で走り回ったフリントとフエルは自分たちでも気づかないうちに、あちこちに軽い擦り傷を負っており、それを手当てしてもらっていたのだ。
「それにしても、こんな大雨は久しぶりですね・・・」
 ふと窓の外を見ると雨はザーザーと派手な音とともに降り続けていた。あの分だと山火事ももう消えているだろう・・・。本当に夢だったらなお良かったのに・・・。
 テッシーが救急箱を持って部屋から出ると「なあ・・・」と部屋の隅でぼんやりと座り込んでいたトマスが、つぶやくように言った。
「ヒナワさんたちはいつ帰ってくるんだ?森があんなになっちゃって、帰り道危なくないかなあ・・?」
 テリの森は多くの木々を焼き払われ、その火を消すために降ったかのようなこの大雨によって、今度は地盤が緩んでいるはずだ。数日間は近づくべきではないだろう。
 アレックの家に遊びに行ったヒナワと子供たちは、予定ではそろそろ帰ってくる筈だったが、またしばらくは会えなくなってしまった。
 椅子から立ち上がり、一度大きく伸びをすると背骨がめきめきと音を立てた。全然乾ききっていない自前の服に着替え、愛用のテンガロンハットを装着する。どうせまたずぶ濡れになるのだから構いはしない。
「帰るの?」
「ああ」
 仕事を終え、突然森まで引っ張り出されて炎とすすにまみれながら妙な動物と戦い、雨にまで打たれて酷く疲れた。部屋を出て、ライタたちにも一声かけようか思案しているちょうどその時、宿のドアが乱暴に開かれた。
「はぁっ、はぁっ・・・ひどい雨だな・・・」
 顔を上げるとすぐにフリントとイサクは目が合った。
「あぁ、フリント!ここにいるって聞いて・・・ちょうど良かった」
 ずぶぬれのイサクの顔には、普段のひょうきんさが見られない。またどこかで別の面倒事でも起きたのだろうか・・・いちいち頼られるのは悪い気はしないが、今日はぐっすり眠りたい。
「お前、ヒナワさんと子供たちには会ったかい?」
 会うも何も、まだ帰ってきていないし森の状態が状態だけに、数日は会えない。と、ついさっきも考えていたところだ。
「・・・・そう・・か・・・・。・・実は俺、昼間、山にきのこを取りに行っててよ。そしたらヒナワさんを見かけたんだ。遠くにチラッと見えただけなんだけどさ。それから、そのあと河原で一休みしてたら、遠くのほうで物凄い・・・そう、ドラゴの叫び声みたいなのが聞こえて、さ・・・・・・」
 リュカとクラウスがドラゴに遊んでもらっていたのだろう。フリントは何も心配することは無いと笑おうとしたが、イサクの表情がそうさせてくれなかった。
「そのすぐあとに・・・その、悲鳴が・・・聞こえたような、気が、したんだ・・・・。なぁ・・フリント・・・。ヒナワさんたち、もう家に戻ってる・・よな・・・・?」




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