第1章〜とむらいの夜〜

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「父ちゃん!父ちゃん!!」
 テリの森を脱出したフリントとフエルは村はずれの聖堂前でみんなと合流した。シートの上に寝かされたライタはフエルの声に無反応だった。
 当然である。寝てたのだから。
「父ちゃんってば!」
 ライタは息子に肩をゆすられ、ぼんやりと目を開いた。
「ん・・・・・フエ・・・ル?フエル!無事だったのか!てめー、このやろう・・・すすで真っ黒じゃねーか・・」
 かばっと上半身を起こし、ほっと安堵の表情を浮かべる。
「父ちゃんこそ、足をケガしてるじゃないか!」
 見るとライタの足首に包帯が巻かれている。しかしライタは躊躇無くその足首をぺしぺしと叩く。
「こんなもんはなぁ、こうしてこうやって、こう・・・イテテテばかやろう!」
「親方、何やってんですか!」
 ライタを止めたのはアチャト。ライタの元で大工仕事の修行をしている男だ。ライタは別に、弟子を取ったというつもりは無いのだが。
「まぁまぁ。とにかくフリントが来てくれて助かったよ」とトマスが言う。今回の件をいち早く村に知らせた、彼の功績もまた大きかった。
「二人はガキのころからのケンカ友達だったもんな」
 みんなの前で改めて発表されると何となく照れくさく、ライタはそっぽを向いてしまうが、「ありがとよフリント。今日のところは俺の借りにしといてくれや」と礼は忘れない。
「親方のありがとうなんて始めて聞いたかもしれない」
「うるせーな、てめーは!」
「あはは、まったくだ。もしかすると大雨が降るぞ」などとブロンソンが茶化すと、空が見る間に雲で覆われていく。
「ありゃ・・・これは・・・・」
 示し合わせたかのように、雨は静かに降り出した。
「この雨で火が消えてくれると良いね・・・」
 トマスの意見に、今回は全員がうなづいた。テリの森は依然、炎を練り上げ、煙を吹き散らしている。タツマイリの村にそんな大規模な火災に対抗するすべは無く、天に任せるのみなのだ。
「ここに居ちゃ冷えちまう。とにかく村に戻ろう」

 しとしとと降りつづける雨は火事を消してくれる助け舟であるはずなのに、何となく村人たちの気は重かった。




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